解析のテクニックあるいは注意点

UPDATA : 31-AUG-2001

ここでは、RIETANで解析を行う際のテクニックや注意点を説明します。ただし、まだRIETAN-97bRIETAN-2000の情報が混在しています。順次RIETAN-2000中心に移行していくつもりです。まだ未整理のため、説明の順番はあまり系統的ではありません。


分解能関数(ピーク形状関数)のパラメーター、UVWの事

プロファイル緩和の方法

原子変位パラメーターBの扱い

その他のポイント

パラメーターを動かす順番

初心者向け解析手順の説明



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ピーク関数のパラメーターなど


  1. RIETAN-2000でHERMESデータを解析する場合、ピーク形状関数としては、NPRFN=2を選択と比較的一致がよいようですし、また扱いやすいようです。


  2. RIETAN-97b、あるいはRIETAN-2000でプロファイル緩和を用いずに解析を行う場合、以下のパラメーターは装置に強く依存します。

    #Gaussian profile parameters, U, V, W, and P
    # Lorentzian profile parameters, X, Xe, Y, and Ye
    # Asymmetry parameter, As

    このうち、P,Xe,Yeはふつう0に固定しておきます。XeとYeはプロファイルが異方的に拡がっている場合に精密化しますが、ほとんどの場合、動かす必要はありません。



  3. :解析を行う時、U, V, W,X,YおよびAsなどの分解能パラメーターは、はじめはサンプルファイルの値で固定しておき、他のパラメーターでfittingする事をおすすめします。充分あってきたところで、これらのパラメーターをひとつづつ回し始めるのが良いと思います。
    なぜなら、これらのパラメーターは互いに強く相関があるので、いきなりいっぺんにまわし始めると、爆発したり、変な極小値に落ち込んでしまう可能性があるからです。


  4. :うごかす順番は、U, UV, UVW、ここで安定したらこの後はUVWをいっぺんに動かしても大丈夫です。UVWを動かしながら、X,YおよびAsはひとつつつ注意して動かします。つまり、Xだけ、Yだけ、Asだけを動かして安定して収束する事を確認してから、XYを同時にうごかし、さらにXYAsと動かします。


  5. :計算が正常にいっているならば、UWは正、Vは負になります。XとYは負の値に収束する事もありますが、負の値を初期値とするとエラーを起こす場合がときどきあります。ちゃんと動いていたはずなのに、突然計算がスタートしなくなった場合は、X,Yの符号を確認し、負の場合は、とりあえず符号を正にしてまわします。ちゃんと動くはずです。


  6. :標準試料のデータを用いて得られたこれらのパラメーターはこちら-->HERMESパラメーター
  7. :通常は最小二乗法として修正Marquardt法を使用するので、NLESQ = 0とします。この場合、各Cycleの値をチェックしてください。正常に終了しているようにみえても、時として、
    Too large Marquardt parameter
    と表示されている場合があります。このときはパラメーターが変な値に落ちている可能性があります。動かすパラメーターを減らしてみましょう。どうしてもこのメッセージが消えないときは共役方向法(NLESQ = 2)を使うとうまくいくはずです。ただし、共役方向法は収束が遅いので何度もまわす必要があります。



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プロファイル緩和

  1. :プロファイル緩和を使っても必ず一致が向上するわけではありません。プロファイル緩和を使わずによく一致するなら、無理に使う必要はありません。プロファイル緩和が有効なのは、プロファイル緩和なしで積分強度がほぼ説明できていても、形状があっていないピークがある場合です。このときは、プロファイル緩和をトライしてみます。


  2. RIETAN-2000でプルファイル緩和を用いる場合、はじめはプロファイル緩和を用いずに全体の分解能パラメーターでfittingしておいて、おおよそあってきてから、単独ピークを1本つつえらんで、プロファイル緩和を行っていきます。いきなりたくさんのピークを加えると、爆発するかもしれません。プロファイル緩和を用いるとき、ひとつのピークには4,5個のパラメーターがありますが、これは一度に動かしても大丈夫なようです。


  3. :プロファイル緩和を行う場合、単独ピークのうちでプロファイルの不一致が一番目立つものからはじめます。もともと良くあっているピークにプロファイル緩和を用いても、S値は向上しないでしょう。


  4. :プロファイル緩和を用いる時は、他のピークが重なっていない単独のピークのみを選びます。複数のピークが重なって一本に見えているピークを使っては、プロファイル緩和の意味がないし、計算が爆発するかもしれません。
    単独ピークかどうかは、Igorグラフ中のブラッグ位置のマークの本数をチェックするか、ブラッグ指数とブラッグ角、強度の表を使うとよいでしょう。NPRINT = 1として 標準的なプリンター出力にすると、計算の最後にブラッグ指数とブラッグ角、強度の表が出力されます。(一度表を作ってしまえば、それ以降はNPRINT=0としたほうがよいでしょう。)


  5. :プロファイル緩和を用いるかどうかを決めるパラメーターはありません。プロファイル緩和を行うピークを指定するだけで、選ばれたピークのみでプロファイル緩和を行います。他の部分は通常のRIETANと同じ計算をします。


  6. :プロファイル緩和を行うピークの指定は、insファイル中の以下の部分で行います。
    # プロファイル緩和した反射において精密化するPPPは次の通り:
    # NPRFN = 1 (分割型pseudo-Voigt関数を適用): W, A, ηL, ηH.
    # NPRFN = 2 (拡張分割型pseudo-Voigt関数を適用): W1, W2, A, ηL, ηH.
    # NPRFN = 3 (分割型Pearson VII関数を適用): W, A, mL, mH.

    PPP1_2.1.0 0.450262 0.369632 1.13682 3.1259E-8 7.59959E-9 11111
    上の例では、2 1 0ブラッグピークに対し,ピーク形状関数の5つのパラメーターを全部動かしてプロファイル緩和を行う事になります。このPPP1_2.1.0 の赤い部分を書き換える事でピークの指定ができます。マイナスの指数も可能です。


  7. :プロファイル緩和を用いた単独ピークはIgorグラフ中ではブラッグ位置マークがに変わりますので、選択が正しいかグラフで確認しましょう。プロファイル緩和を行わなかったピークは通常どおりでマークされます。


  8. :さらに、1つピークを加えるたびにかならず計算結果のグラフをチェックして、そのピークでの一致が改善されてていくのを確認してください。なお、プロファイル緩和を行う際は全体の分解能パラメーター(U,V,Wなど)は固定しておいたほうがよいでしょう。プロファイル緩和によって安定して収束するのを確認してから、改めて分解能パラメーターも加えて計算するのが賢明です。


  9. RIETAN-2000でも、計算が正常にいっているならばUWは正、Vは負になります。(たぶん)
    標準試料のデータを用いて得られたこれらのパラメーターはこちら-->HERMESパラメーター


  10. :プルファイル緩和を用いれば多くのS値がかなり向上しますが、かならず向上するとは限りません。むしろSが悪くなる場合や、ピーク形状が変になる事すらあります。(例えばピークが分裂する場合もあります。)プルファイル緩和を用いたら、グラフ上の残差とピーク形状を必ず確認して、異常があればプロファイル緩和からははずします。



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原子変位パラメーターBの扱い

原子変位パラメーターBは当然ながら正の値でなければなりません。多くの場合0〜1の間の値をとるようです。Bが負なのに、良くあっている、なんていばって言ってはいけません。ちなみにBを温度因子と呼ぶのは間違いです。


Bが極端に小さかったり、負になってしまう場合は、同じサイトにいる原子、同じ対称性を持つサイトにいる原子、結合の強い原子同士のBを一致させるなど、束縛条件をいれるのがよいでしょう。それでもだめなら、すべてのBを一致させてしまいます。束縛条件はたとえば下のようにします。これは、CのBパラメーターを11BのBパラメーターと一致させて解析する例です。
# Label/species, g, x, y, z, B, and refinement identifiers (ID)
La/La 0.997093 0.0 0.0 0.0 0.344725 00001
B11/B11 1.0 0.361365 0.861365 0.5 0.425061 00001
C/C 0.989889 0.160048 0.660048 0.5 0.425061 00002
}
%
A(C,B)=A(B11,B)



Bがどうしても正にならない場合は、ピークプロファイルの計算範囲が広すぎる可能性があります。PCパラメーター(プロファイルを計算する散乱角領域を決定するための定数)を小さくしてみると、改善するかもしれません。PCはT1223J.insでは 546行目付近で定義されています。わからない場合はEditorの検索機能を使えばよいでしょう。


HERMESのデータを使って異方性原子変位パラメーター, bijを原理的には決めることができます。実際に定量評価に成功し、多くの情報をとりだしているユーザーもいます。しかし、HERMESは測定Q領域上限が7A-1とせまいため、温度因子に関する感度がひくく、Rietveld解析で異方性原子変位パラメーターをまわすととんでもない値になることがよくあります。しかも、異方性原子変位パラメーターをフリーにした場合、パラメーターがどっと増えますから、R因子は下がる傾向があります。このため、fakeの結果をうのみにする危険性があります。異方性原子変位パラメーターの値が正当かどうか判断できない初心者の方は、異方性原子変位パラメーターをfittingパラメーターにしないで、等方的パラメーターまでにしておいた方が無難です。また、異方性原子変位パラメーターを高精度できめたい人は、HERMESよりは、パルス中性子の粉末回折装置での実験をお勧めします。


B占有率を同時に回すと、発散してしまう場合があります。これは、両者に強い相関があるからです。この場合は、あきらめて占有率を100%に固定しましょう。



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一般的な注意点

また、RIETAN-97bの場合、装置固有の値ではありませんが、
# Peak-shift parameters Z, Ds, and Ts
のDs,Tsも0に固定してください。散乱角原点のずれに相当するZは、実験時のセッティングが正しければ、+-0.1程度になるはずです。これよりもかなり大きくなっている場合は、変な穴におちている可能性があります。格子定数を確認してください。


格子定数とZパラメーターには強い相関があり、両方まわすと、格子定数がずれる可能性があります。X線の場合、標準試料でZ,Ds,Tsを決定し、試料測定時にはZ,Ds,Tsを固定して格子定数をまわしますが、HERMESの場合、測定ごとにZがかわってしまうので、その方法がとれません。ですから、お勧めは以下の方法です。

1:HERMESで室温の測定をしておく。
2:X線で室温の格子定数を決定しておく。
3:HERMESデータを解析するとき、X線できめた格子定数で固定して、Zパラメーターを決定する。
4:それ以外の温度の測定ではzパラメーターを室温できめた値に固定しておき、格子定数を決定する。



バックグランドパラメーターは12個ありますが、全部動かす必要はありません。8個以下で十分です。後ろのほうは0に固定しておきます。また、解析が進んできたら、バックグランドは固定しておいてもよいでしょう。


原子のpositional parameterx,y,zは互いに関係がある場合がよくあります。(y=x+0.5など)。その場合、x,y,zをfitting parameterにする時には、束縛条件を自分でいれなければなりません。超初心者は案外これを忘れがちです。条件づけは下のように書くだけです。下はB11のxとyにy=x+0.5の関係がある場合で、A(B11,y)=A(B11,x)+0.5が束縛条件です。このときyのIDは2にします。
# Label/species, g, x, y, z, B, and refinement identifiers (ID)
La/La 0.997093 0.0 0.0 0.0 0.344725 00001
B11/B11 1.0 0.361365 0.861365 0.5 0.425061 01201
C/C 0.989889 0.160048 0.660048 0.5 0.425061 00001
}
%
A(B11,y)=A(B11,x)+0.5



Fitting Parameterの標準偏差(誤差)をときどきチェックしましょう。収束はするものの、あるparameterの標準偏差が大きすぎる場合があります。たとえば標準偏差が収束値と同程度ならそのときはいっそ固定してしまったほうが賢明かもしれません。論文を書くときは、この標準偏差が誤差として扱われます。


バックグランドの領域が多いと、見かけ上S値が良くなります。Siのようにピークの間があいていている場合、シビアな計算にはバックグランド領域をけずっておくとよいかもしれません。もちろん最終的な人に見せる結果ではバックグランドを入れた図にします。削除領域が多いと不純物だらけの試料にみえますので。


不純物を含む場合は、できるかぎり不純物を特定して、二相でFittingします。不純物ピークの付近を削除してFittingする事ももちろん可能ですが、不純物の量によっては解析の精度を損なう場合があります。


HERMESは試料セルが大きいく、ざっくりいれることができますから、選択配向の影響は、X線に比べると無視できる程度です。ですから、選択配向因子はほとんどの場合、1に固定しておいて問題ありません。とくにMEMをやる場合は、1に固定すべきです。


もし、選択配向の補正を行うときは、へき開面の指定をわすれずに。へき開面は、選択配向ベクトルを用いて逆格子ベクトルで指定します。なお、立方晶であっても劈開があれば選択配向の影響をうける可能性があります。


選択配向パラメーターが1のときが選択配向なしの状態です。板状劈開での針状劈開でも1から離れると配向がきつくなります。普通はせいぜい0.9~1.1程度の間でしょう。あまり1からはなれなければ、1に固定しておいた方が賢明です。


RIETANでは円筒セルの場合の吸収補正が取り込まれています。パラメーターは試料直径と粉末試料の密度(g/cm3)です。ですから、実験の際には、体積と重量を測っておきます。試料高さをはかるメジャーと天秤が実験室にあります。RIETAN outputの最後の方にバルク密度が計算されていますから、それにパッキングファクターをかけた値を入力しておけばよいでしょう。通常粉末試料のパッキングファクターは0.5~0.6です。


付属のプログラムORFFEを使うと、結晶中の原子間距離、角度などを誤差つきで計算してくれるので、便利です。NDA = 1とすれば、RIETAN終了時にORFFEの入力ファイル.xyzが作られます。これをORFFEに読み込ませれば様々なパラメーターを表示してくれます。論文にパラメーターを書くときに間違いがへります。もっとも、VESTAをつかえば同じことができます。

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